2013年6月10日(月)コヘレト1章 風を追う


知恵が深まれば悩みも深まり
知識が増せば痛みも増す。(コヘレト1:18)

 太陽の下で時を越えて変わらない姿を保ち続ける自然の大地に目を向ければ、その上に繰り広げられる人間の歴史は流れゆく風のようなものだ、とコヘレトは呟きます。イスラエルの最高賢者を自認する王の口からは、神への賛美も祈りの言葉も聞かれることなく、「空しい」との物憂い溜息が洩れるばかりです。

 知恵や知識が増せば人は幸せになれるとの素朴な思いから、人が良く生きるための学びを続けることは、神が人間に与えておられる務めです。しかし、知恵の探求には終わりがなく、完全な知識に到達するには世界はあまりに広く、人の一生は短すぎます。知恵を求めて人生をささげた結果、その努力が必ずしも幸福には結び付かないことを賢者は悟り、神の領域には達しえない人の限界を前に佇みます。

 人生は風を追うようなもの。死に定められた人の努力は時に空しく挫折し、世の中からも忘れ去られます。しかし、真の知恵はそこから始まります。己の限界を思い知らされたところから神への飛翔がなされます。