キリストへの時間 2013年9月1日(日)放送 キリストへの時間宛のメールはこちらのフォームから送信ください

黒田朔(清和学園校長)

黒田朔(清和学園校長)

メッセージ: 矢野さんのこと

 皆さんお元気ですか。わたしは清和女子中高等学校の校長、黒田朔です。
 ハワイにある高知城、お城の教会として親しまれているマキキ教会から去年の4月、高知県下で唯一つのミッションスクール清和女子中高等学校に赴任してまいりました。毎朝のチャペルで「高校生の時に聖書を信じる人生選んでごらん。70歳越えてもなお、うれしい人生生きることができるから」と生徒達に話します。

 さて9月、この月に迎える「敬老の日」にちなんで、「素敵な年のとり方」と題して5回にわたってお話をさせていただきます。
 ハワイのマキキ教会に赴任したのは今から30年前、移民一世の皆さんは高齢でしたが、お元気でした。こんな風に年とれるなら年とるのも苦じゃないな、と思うほど魅力的でした。その中に矢野虎次さんがいらっしゃいました。矢野さんは18歳で故郷福岡を出、生涯の夢をハワイに託して移住、当時キリスト教会で開かれていた英語の夜学校を通して聖書に触れ、クリスチャンで行こうと決めたそうです。

 それから戦争が起こり、日本人コミュニティの世話役であった矢野さんは若い将校の監視を受けることになりました。ある日将校が矢野さんに言ったそうです。「この戦争でアメリカが勝つことを望むのか、それとも日本か、返答せよ。」矢野さんは答えました。「日本で生まれたものとして日本に負けてほしくない。しかし、育てられた母国アメリカにも負けてもらいたくはない。両方の間で苦しむわたし達日本人の気持ちが分からないのか。こんな愚かな質問は今後一切しないでほしい。」率直な矢野さんの言葉に年若い将校は再び同じ質問を繰り返さなかったというのです。そんな豪傑、矢野さんも年を重ねて90代半ばを過ぎ、教会出席もできなくなりましたが、それでもいよいよ輝いていました。耳が遠くなった矢野さんを訪問すると、紙を短冊に切り、待っておられ、筆談の交わりを楽しみました。矢野さんはわたしと誕生日が同じだったので、一緒にお祝いをするために婦人達と訪ねますと、矢野さんは大喜び。婦人達の質問ににやっとわらいながら答えたんです。「長生きの秘訣?それはの、息を止めぬ事じゃ…」
 また、百歳の誕生日の時のことでした。ハッピーバスデイを歌ってケーキを食べようとすると、矢野さんの口には入れ歯が入ってないんです。「矢野さん、入れ歯どうしたんですか。」「いやあ、わしゃ、もの食う時は入れ歯要らんのじゃ。」「へぇ…」と言って食べ始めると「じゃがの、入れ歯が要るときがある。」「もの食べる時に要らないのに、どんな時ですか。」「歯を磨くときじゃ。」みんなで大笑いでした。

 こんな矢野さんがクリスマス前に電話をかけてこられました。病院からでした。急いで駆けつけると「どうも今年のクリスマスは、あちらでお祝いすることになりそうです。先生が忙しくなる前に準備のお祈りをしておいてもらおうとお呼びだてしました。」そんなことで、わたしは聞こえにくい矢野さんの耳に口を当てるようにして祈りました。「天の父よ。今までのよき人生をありがとうございます。すばらしい家族を感謝します。教会の交わりをありがとうございます。何よりもイエス様、わたしの罪を赦し、天国に迎えるために、身代わりとなって十字架にかかってくださったことを感謝します。準備はできております。いつなりとも神さまの時に良きことをしてください。キリストのお名前で、アーメン」「アーメン」

 そのあと、忙しさにまぎれてお見舞いをしないまま年が明けてしまい、矢野さんからのお礼の手紙が届きました。
 その中に「この度は 天国行きと思いしに 道をたがえて 逆戻りけり」とありました。まるで矢野さんのお顔を見るような思いがしました。ところが、手紙の結びにもう一首、添えられていました。
 「夕暮れに 残れる光 仰ぎつつ なおも進まん 老いの坂道」
 矢野さんに会って、長生きもただ長く生きればそれでよいというのではない。良い長生きは自分で選び、作り上げていくものだと知りました。人と共に楽しみ、感謝し、生きる。そんな長生きをするために、矢野さんが選んだこと、それがこの聖書の言葉です。
「あなたの若い日にあなたの創造者を覚えよ。災いの日が来ないうちに、また、『何の喜びもない。』という年月が近づく前に。」旧約聖書伝道者の書12章1節(新改訳)

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